2021年10月12日
パーキンソン病は脳神経内科において代表的な疾患の一つです。私自身、山口大学で勤務していたときは「パーキンソン病特殊治療外来」を担当していました。また、徳山中央病院勤務時も積極的に脳深部刺激術やレボドパ/カルビドパ経腸療法を導入していました。
今回はパーキンソン病の概要、症状について説明します。
- パーキンソン病とは
脳内の黒質という場所に存在するドパミン産生神経細胞の細胞死を主要病変とする、緩徐進行性の神経変性疾患です。多くは40歳以降に発症します。
- 疫学
パーキンソン病の罹患率(年間の発症の頻度)は14~19人/10万人・年で、有病率(疾患を有している人の割合)は100~300人/10万人と推定されています。パーキンソン病は年齢と共に頻度が高くなるとされており、65歳以上では罹患率は160人/10万人・年、有病率は950人/10万人(約100人に1人)と非常に高値を示します。日本の調査では罹患率は10~18人/10万人・年、有病率は100~180人/10万人程度とされます。国内では20万人程度の患者さんがいると考えられています。
- 症状
パーキンソン病の方は主に「手のふるえ」や「動きの悪さ」を主訴に来院されることが多いですが、それ以外にも多くの症状があります。主に「運動症状」と「非運動症状」の2つに分けられます。
■運動症状
その名の通り、身体の動きに影響を与えます。パーキンソン病を代表する症状で、振戦・無動・筋強剛・姿勢反射障害は4大症状と呼ばれます。前3者は通常左右差があり、左右どちらかから発症することが多いです。
振戦:患者さんの7割程度にみられます。静止時振戦といい、じっとしているとふるえが出現しますが、力を入れると軽減するのが特徴です。母指と示指・中指をすりあわせるようなふるえを呈することがあり、丸薬をまるめるようにみえることからpill-rolling tremorと呼ばれます。歩行時にもよくみられ、精神的に緊張したり、計算負荷がかかるとふるえが強くなったりします。
参考動画
無動:全身の動きが遅くなります。このため字が小さくなる、箸が使いにくいなどが初期に出現し、歩行時に足を引きずる、歩幅が小さくなる、ふらつくなどの症状を呈します。言葉が不明瞭で聞き取りにくくなり、瞬目の減少、表情のこわばり(仮面様顔貌)、流涎なども無動の一症状です。
筋強剛:関節を他動的に動かした際、手足や身体が固く抵抗が増強している状態です。通常は振戦などと同様に身体の一側から出現し、病気の進行にあわせて両側に症状が見られるようになります。
姿勢反射障害:通常、立ったり歩いたりするときは、自然に全身のバランスを保っています。パーキンソン病ではバランスを保つための反射が起こりにくくなり、転びやすくなったりなど姿勢の不安定さがみられます。病初期にみられることはなく、病気の進行に合わせて出現してきます。症状が進行すると歩行が困難になり、人によっては歩行時に杖や車椅子が必要になったりします。
■非運動症状
パーキンソン病の中核症状は運動症状ですが、多くの方で多彩な「非運動症状」がみられます。運動症状の重症度とは必ずしも一致せず、これ単独で生活の質に影響を及ぼします。
睡眠障害:
・日中過眠-日中の過剰な眠気は7割程度の患者さんでみられます。内服治療が誘発因子となることもあります。
・突発性睡眠-眠気などの前兆がなく、食事・会話・運転などの活動時に突然眠り込みます。一部のパーキンソン病治療薬では突発性睡眠を起こしやすくなることが指摘されており、車の運転に制限がかかることがあります。
・夜間不眠-頻度の高い症状で、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などいずれもみられます。寝返りが打ちにくい、筋肉痛、痛み、頻尿などが関連していることがあります。
・レム睡眠行動障害-睡眠中に夢をみることで、夢内容に一致した行動(大声で叫ぶ、蹴ったり叩いたりする、ベッドから落ちる)が出現します。パーキンソン病の発症前からみられる症状の一つです。
・むずむず脚症候群(restless legs syndrome)-入眠時に下肢のむずむずする不快感を自覚します。じっとしていると症状が増悪し、足を動かすと改善します。
精神・認知・行動障害:
・気分障害-抑うつ症状や不安感、アパシー(やる気の消失、無気力)がみられます。抑うつ症状としては感情の落ち込み、喜びを感じることができない、周りへの関心の低下があります。これらの症状は生活の質を低下させ、運動症状も悪化させます。
・幻覚、妄想-「家の中に虫がみえる」「人の影が見える」などを訴えることがあります。多くの場合は幻覚であることに気づいています。しかし、症状が強くなると「配偶者が浮気をしている」「お金が盗まれた」「家に侵入者がいる」といった訴えがみられ、ひどいときには警察に通報するなどの行動が見られます。患者本人と介護者の双方の生活の質を落とすことがある重要な症状です。
・認知機能障害-思考力の低下や記憶障害がみられます。長期的には40%以上の方で出現するとされます。
自律神経障害:
自律神経は、心臓や腸管、呼吸、発汗、排尿などを制御しています。これらの活動は、普段は特に意識することなく、無意識下に行われています。パーキンソン病では自律神経の異常をきたし、起立性低血圧・頻尿・便秘・発汗過多などの症状が出現します。
感覚障害:
・嗅覚障害-パーキンソン病患者さんの多くにみられ、運動症状の出現する前から出現することがあります。主ににおいを感じなくなるのではなく、においの識別が困難になるとされます。
・痛み-4割以上の方が自覚します。じんじん感や灼熱感など多彩な自覚症状を呈します。一般的には運動症状と同じ部位に出現し、薬の効果がきれると増悪することがあります。
疲労感:
疲れやすさ、疲労感は約4~6割と高率にみられ、生活の質を落とす原因の一つとされます。
<参考文献>
パーキンソン病診療ガイドライン2018
Tags:パーキンソン病