2024年11月25日
身体がふるえる症状を「振戦」と呼びます。脳神経内科ではこの「振戦」を訴えて受診される方が多く、脳神経内科診療において重要な症状の一つです。
今回は振戦について、その原因、治療について書いていきます。
振戦の種類
静止時振戦
安静時振戦とも呼びます。座っているときや横になってリラックスしているときに出現します。この振戦は、通常震えている手足を意識的に動かすことで振戦を止めることができます。
動作時振戦
動作性振戦は、意図的に筋肉を動かしているときに発生します。動作時振戦にはいくつかの種類があります。
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- 運動時振戦:意図的に動作を行う際に発生します。例えば、字を書くときやコップから水を飲むときに見られます。場合によっては、目標に近づくにつれて振戦が徐々に悪化することがあります(企図振戦と呼びます)。
- 姿勢時振戦:体の一部を力を入れた姿勢で静止させようとしたときに発生します。例えば、立っているときに脚が震えたり、腕を前に伸ばしているときに腕が震えたりすることがあります。
- 等尺性振戦:筋肉が一定強度で等尺性収縮を持続すると筋疲労による生理的な振戦が出現します。等尺性収縮とは筋肉の長さを変えずに力を入れることであり、重いものを片手で持ったり、壁に手を押しつけたりすると手の振戦がみられます。
機能性振戦
機能性振戦は、静止時振戦と動作時振戦の特徴を兼ね備えることがあります。その他の振戦とは異なり、機能性振戦には明確な医学的原因がありません。このタイプの振戦は、診察中に気をそらされると、症状が軽くなることが多いです。例えば、振戦の影響を受けていない体の別の部分を動かすように指示された場合です。
振戦の原因
静止時振戦
静止時振戦の最も一般的な原因はパーキンソン病です。「丸薬を丸める手」と呼ばれる特徴的な動きを呈します。
動作性振戦
- 生理的振戦:動作性振戦の最も一般的な原因です。これは手がわずかに震える現象で、誰にでも見られるものです。通常は非常に軽度で目立たないことが多いですが、場合によっては震えが誇張されることがあります。これが起こる要因として以下が知られています:
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- 抗うつ薬や喘息治療薬などの特定の薬を服用している場合
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- カフェインを過剰摂取した場合
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- 運動後など筋肉が非常に疲れている場合
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- 甲状腺機能が過剰になっている場合
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- 本態性振戦:振戦を来す病気の中では頻度が高く、有病率は2.5~7%とされます。運動時、姿勢時の振戦が特徴で、通常静止時には出現しません。本態性振戦の原因は明確ではありませんが、家族内で遺伝することがあります。
振戦の特徴としては、腕をまっすぐ伸ばそうとしたときに震えることが多く見られます。また、目標を持って手を動かすときにも震える傾向があります。例えば、字を書いたり、グラスから飲んだり、指で鼻に触れようとするときに手が震えることがあります。
本態性振戦は、頭に影響を及ぼすこともあります。そのため、頭を「はいはい」とうなずいたり、「いいえいいえ」と横に振っているように見えることがあります。
振戦の検査
今のところ特定の検査はありません。上記のような振戦の特徴や振戦以外の症状から原因を推測します。甲状腺機能亢進症による振戦を鑑別するために血液検査を行うことが多いです。
振戦の治療
振戦の原因が判明した場合(甲状腺機能亢進症、薬剤性など)には、その問題を解決することで振戦が改善します。
パーキンソン病は内服薬で振戦が改善することが多いですが、一部内服薬でのコントロールが困難な方がいます。
本態性振戦も内服治療を行います(アロチノロールなど)。ある程度改善することが多いですが、完全に消失させることは難しいです。内服では効果が不十分で、振戦のため日常生活の障害がひどい場合には手術療法を検討します。
手術治療はFUS(MRIガイド下集束超音波治療)、DBS(脳深部刺激術)を行います。FUSは県内に実施可能施設がないため、福岡もしくは岡山へ紹介しています。DBSについては山口県立総合医療センター、山口大学医学部附属病院へ紹介します。
最後に
振戦は頻度が高い症状の一つで、高度な場合は生活に大きな影響を与える辛い症状です。しかし、適切な診断と治療で、多くの場合改善が期待できます。「ふるえ」で悩んでいる方は、一度脳神経内科へ受診してみてください。一緒に原因を探り、最適な治療法を見つけていきましょう。